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この物語はフィクションです。
登場する人物、団体は全て架空のものであり
実在のいかなる人物、団体とも関係ありません。
なお、当作品は一部に残酷な表現を使用しています。
それらの描写を嫌う方はご注意下さい。
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shirotsumesou presents
from "Flexen Witch Ploject"

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prologue : encounter
■prologue : encounter

「…ねぇ、“黒猫”のおとぎ話って知ってる?」

 私の軽い質問が、潮交じりの海風と共に吹きぬける。
屋上の縁、そこに在るはずの鉄柵はなく、立ち入り禁止の英文がプリントされたペラペラのビニルテープが、頼りなげに風に揺らめいて、甲高い音を響かせていた。
 そして、本調子ではないからりとした夏の熱さが、その場に居る『私達』を絡めとる。

「………どうして、あなたが…ここに、いるの…?」
 震える声で、後ろに立つ少女が私を睨みつける。まるで怯える子兎の様。
やれやれ、こっちの質問聞いてたのかしら?まぁ無理もないか。
 私は、この『私立水上女学園』の第7校舎の屋上、断崖の縁に立っている。そう、あの忌まわしい事故が起こった場所に。 びゅうっと、時折強く吹き上がる風が、私の長い髪を煩わしく巻き上げる。左手には分厚いハードカバー。右手に携えた一枚のしおりは、風を受けて小刻みに震えていた。
 風がやむまでの数秒間。その間が彼女にとってどれだけ長い間かは、私には想像もつかない。やがて風は治まり、顔に降り落ちてきた髪をかき上げながら、私は背後、屋上の入り口の方に振り返る。そこには、予想通りの人物が、これまた予想通りのポーズで呆然と立っていた。

「どうしてって、あなたがここで死ぬ事を知ってたからよ」
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黒猫のフォークロア~Little Black~

 第1話 黒猫と呼ばれる少女 ~Black cat's folklore~

■cast
栞 本条 栞 …不思議な少女

書真 国見書真 …過保護な青年

九房警部 九房和友 …傍迷惑な警部

有馬刑事 有馬輝義 …気の毒な刑事

葵 鹿島 葵 …血塗れな少女

真冬 北野真冬 …ムクロな少女
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chaper.1 : Lucky Strike
■chaper.1 : Lucky Strike
 初夏のさわやかな昼下がり。
電車の中は涼を求める夏服の学生で溢れかえっていた。学校帰りらしい女子高生らの賑やかな会話が聞こえる。

「な〜にそれっ、猫がどうかしたの?」
「あぁ、あんたはこの街の出身じゃないから、知らないんだっけか」
 夕刻なため、市営電鉄の小さな車両には多くの学生が乗っていた。
3人掛けの席を大股を広げて独占している柄の悪い少年や、車両のリノウムの床に座り込んでキャッキャと笑う女の子たち。小説に読み耽っている者もいれば、マンガ雑誌をニヤニヤしながら読んでいる者もいる。その雑多とした中で、入り口付近の3人掛け席に座る3人の少女が和気藹々とお喋りをしている。
「この街には昔から伝わる都市伝説みたいなものがあるの」
「『物忘れは黒猫の仕業』ってね。大事な用事とか、ついさっきあったこととか、時々忘れちゃったりするだろ?」
「うん」
 3人の内の背の高い少女が、一番小さな少女をまるで脅かすように語り掛けている。その様子に、もう1人のお下げの少女がクスクスと笑っている。
「昔の人は何でも他の存在のせいにしたかったのさ。自分の物忘れを不吉の象徴たる黒猫に押し付けようとしたんだ」
 ふーんとつぶやいた一番小さな少女は、ぴょこんと席を立ち上がった。
「じゃあさ、じゃあさ!私がテスト勉強の内容忘れたときは、先生に『黒猫さんに食べられちゃいました〜』って言っていいのかな!」
「アンタの場合は本当に勉強してないだろうが!」
 背の高い少女の言葉に、あははは、と笑いながらくるくると回る小さな少女。しかし、

「わっ!」
 大きなカーブを曲がろうとする電車のゆれに、小さな少女がよろめいた。
手は…、どこにも届きそうにない。
「あにすんだコラァ!」
 小さな少女が倒れた場所は、こともあろうに柄の悪い少年の足元だった。少年は立ち上がり、小さな少女を睨みつける。その様子に真っ青になりながらも、お下げの少女が小さな少女に駆け寄った。
「ご、ごめんなさい。お怪我はありませんか?!」
「冗談じゃねぇぞタコ!イシャリョー払えってのイシャリョー!」
「そ、そんな……」
 お尻をさすり、少し痛がりながら、小さな少女も立ち上がる。
「あたた…、ご、ごめんっていってんだから、もういいじゃん」
「テメェがぶつかってきたんだろうが、コラ!」
 その怒号に、さっきまで元気いっぱいだった少女も少し青ざめる。周囲を見渡しても、誰も我関せずといった風体で、ただ見ているだけ。
「ぶつかった事は謝ってんじゃないか。その辺にしときなよオニーサン」
 3人組の最後の1人、背の高い少女が少年を睨み付けつつ歩み寄る。
「鏡子ちゃん…」
「キョーちゃん…」
 やがてにらみ合う少年と背の高い少女。周囲は固唾を呑んで、ただ見ているだけ。
「んだぁ?水女のオンナじゃねぇか…、へへへ、別にいいんだぜ、イシャリョーじゃなくてデートでもよ…」
 少年は彼女らの制服を見て、下衆な笑みを浮かべる。そのいやらしい笑みに、お下げの少女が思わず小さな悲鳴を上げた。小さな少女も、スカートの裾をぎゅっと握り締めながら、その様子を見守る。背の高い少女も腹をくくったのか、口の端をぎゅっと締め、拳を握る。

『Lo copi sopra questo libro....』

 だから、そんな小さな声が聞こえることなんてないのだ。そして一触即発のその瞬間。少女らの後ろから少年に向かって、“何”かが飛んでいった。
「!?」
 “それ”は勢い良く少年の顔面にヒットし、そのまま電車の床に転げ落ちる。鈍く輝く皮製のカバー、そう、さっきまで“私”が読んでいた文庫本サイズのハードカバーだ。私は放り投げたポーズのまま自分のプレイのおさらいを脳内思考。フォームはオーソドックスなオーバースローややひねり気味。うん、いい感じに一直線(ストライク)。満点満点。
 件の少年は突然の襲撃に腰を抜かしたらしい。根性なしめ、別段心配する必要もなかったかもしれない。車両内の空気がざわついているが、特に気にする必要はないだろう。
「ちょ、アンタ何してるの!?」
 少年に歩み寄る私に、背の高い少女があわてた声を上げる。彼女の事を無視して、少年に歩み寄る私に、周囲の野次馬が固唾を呑んで見ている。痛みで顔をしかめている少年に、私は落ちた本を拾いながら無表情に声をかける。
「大丈夫ですか?突然電車が揺れたんで、眠っていたあなたが倒れたんですよ」
「……え?」
 後ろの3人の少女が私の言葉に、戸惑いの声を上げた。そりゃそうだろう、私が、彼が眠っていて勝手に倒れた、なんて在りもしないこと言ったんだから。
 何が起こったのか判らない顔をしていた少年が、ボーっとした顔で頭を掻く。
「…んだよ、俺みっともネーな、クソッ!」
 やけくそに立ち上がり、再び3人掛けの座席に座りなおす少年の姿に、周囲は驚きの色を隠せない。なんたって、さっきの喧嘩のことがまるで無かったことのようになったからだ。
「………」

 私も立ち上がり、自分の席に戻ろうとした矢先、背の高い少女が腕をつかんできた。
「ど、どういうことよアンタ!」
「あなた達に咎はない。それだけ」
 私は軽く振り払おうとするも、いやに強い握力で手を離さない少女。…消すか?、いや、適当に茶を濁すほうがいいだろう。ややうんざりしながら軽く視線を背けた。
「…頭でも打ったんじゃない?そのことで冷静になれたとか」
「んなわけあるか!アンタ、何やったのよ、催眠術?!」
 む、しつこく聞いてくるやつは嫌いだ。結局、強引に振り切り、自分の席に戻ろうとすると、原因となった小さな少女が私の前に立った。
「……何?」
 まだ何が起こったのかわからず、少女はなかなか口に出せずにいたが、しばらくするとペコリと頭を下げた。
「よ、よくわかんないけど、ありがと」
「何のこと?私は“落とした”本を拾うついで、偶然倒れてたあいつに声をかけただけよ」
「でも、でも、ありがと!」
 スカートをぎゅっと握り締め、再びペコリとお辞儀する小さな少女、その脇にはいつの間にか残り2人もいた。
「危ないところを、ありがとうございます」
「何やったのか気になるけど、とりあえずはお礼だけしとくよ。…サンキュ」
 お下げの少女が微笑み、背の高い少女が仏頂面でそう言った。別にお礼を言われるような大層なことをしていない。そう、と一言いって席に戻ろうとすると、お下げの少女があっと言う声を上げる。
「あれ?あなたって確か、クラスメイトの本条さんよね、本条栞さん」
 その言葉に他の2人も気づいた。本条栞、私の名前。たいした事じゃない、それにクラスメイトだからって理由でやったわけではない。
「もういい?私は本を読みたいの」
「あ、ごめんなさい。でも本当にありがとう、本条さん」
「………………………」
 ようやく道を明けてくれたので、私は自分が座っていた席に戻る。何故か左右にいた客がいなくなっていたけど、特には問題ないだろう。先ほど投げつけた本を開き、中身を確かめる。白紙だった本の中には、

『先ほどのやり取り』が事細かに記されていた。

 私は細く息をつく。さっきの少年の“記憶”は、どうやら『正常に切り取られている』ようだった。
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chapter.2 : Annoying to men
■chapter.2 : Annoying to men
 私のこの奇妙な能力?に関しては後述するとしよう。長い話になるし、…面倒だし、まぁそこんとこ察してくれるとありがたい。
 少年の記憶は、別段面白くもなんとも無かった。なので駅に着いた際に、書き込まれたページ分を破いてホームのゴミ箱へと捨てた。うちに帰るまで歩いて15分、駅近くの本屋へは昨日寄ったから、新刊の発売日は確認しているし、購入したい本も特にない。

 なんとも手持ち無沙汰だ。仕方が無いので、誰かの記憶を写し取ろうと駅のホームをうろつく。ちょうど私と同じ歳くらいの少女が大きなバッグを抱えて歩いていたので、そっと近づいた。そして腰に下げたポーチから、赤いリボンが巻かれた一枚のしおりを抜き出した。
 しおりに書いてあるキーワードは“今日の出来事”、うん、いつもと同じヤツ。

『Lo copi sopra questo libro....』

 口の中で詔を呟き、すれ違いざま、誰にも気づかれないようにそっと、手にしたしおりを少女の即頭部に投げ飛ばす。コツンッとした、その小さな衝撃が気になったのか、少女は周囲を見渡すように首をひねっている。しかし、目当ての電車がもう来たのか、小走りで駆け出す少女を横目に、私は落ちたしおりを拾い上げる。
 しおりに巻かれたリボンの色は青、写し取り成功だ。私はそれをさっきの本に指し、少女とは逆の改札口へと歩き出す。さて、彼女の記憶はどんな味なのだろう。それを思うと少しだけ歩調が早くなる。早く“読み干したい”と。…お行儀悪いか。

 ホームを出て、夕方のごった返した駅舎に入った時、不意に横手から声がかけられた。
「いよっ、栞ちゃん。偶然だね」
 あからさまにこちらを待っていたという風に佇んでいたのは、XX県警の九房警部だった。随分前にかかわった事件以来、何かと“ひまつぶし”に来る迷惑警部だ。…彼が来たということは『何か厄介なこと』を持って来たということ。お連れの有馬刑事も、こちらの内心が読めたのか、苦笑している。そう、面倒なのだ。
 九房警部は、いかにも馴れた様子で壁に肩ひじをつき、今時ドラマでもやらないようなポーズでウインクする。周りにたむろしてる女の子らがチラチラと見るくらい二枚目である彼がやると、何故か嫌味に見えないところが、実に不思議だ。
「あははは、そんな変な顔しないでくれよ。どうだい?今、この場所で出会った記念に、近くの喫茶店でお茶でも…」
「結構です」
「うわっ、相変わらず冷たいなぁ栞ちゃん!お兄さんゾクゾクしちゃう!」
「先輩、その返し古いですよ?」
何かに悶える上司をあきれ顔で諭す部下、まったくもって奇妙な2人組だ。有馬刑事も九房警部に負けずとも劣らないルックスの為、周りの視線を浴びているが気付いてない様子。
「何か用事ですか?」
 さっさと用事を聞いて、さっさと切り上げようと思考する。何しろ、この人が現れると前述の通り、ロクなことがないからだ。
「まぁ、立ち話もなんだから、車でうちに送るよ。茶菓子も持ってきたし、ヤツにも聞いてもらいたいしね」
 座り込んでイジけていた九房警部は、見上げながら苦笑気味に言った。その背には東京の有名スィーツ店の紙袋。そう、この人がこんな顔でお土産を持ってきたと言ったときは、たいてい札付きの面倒事がやってくるのだ。私は渋々、彼の誘いに乗る事にした。

 その後、彼らの所有車らしいやたらと古臭い乗用車に揺られて数分。車は私の家がある煉瓦造りの古いビル正面に止められた。
 5階建ての昭和初期建造で、大戦の嵐にも耐えたらしいが、さすがに最近は隙間風が気になる感じ。1階が古書店、2階が仕事上の事務所、3階が国見くんの私室兼書庫、4階が私の私室兼書庫、5階が特別書庫と、まさに本だらけの家だ。
 細い通りに面しているし、滅多にお客も来ないから、別に正面に止めても問題ないけど、警察が大手振って営業妨害するか?まぁいいや。
 なにやら私に目配せしている、先に行けと。別に従うわけじゃないけど、私は先行して、古めかしい木製の大きな扉を開けた。カラン、という少し重めのドアベルが鳴り、古い本独特の湿った紙の匂いが私を包む。そして、

「いらっしゃ…、ぁいや、おかえり、栞」
「うん、ただいま、国見くん」
いつものように笑顔で迎えてくれた、私の保護者の国見書真くん。店内を見渡すと、彼以外には誰もいないようだ。…今日も閑古鳥が鳴いているらしい。
 彼、国見書真くんは仕事上での私のパートナーであり、プライベートでは保護者だ。実質的な保護者は私の大婆様だけど、めったに日本に居ないから、代わりに彼が私を養ってくれている。普段はこの古書店で働いてて、時々裏の仕事として探偵まがいのことをやっている。たまにしかないらしいけど、一度で結構な額を稼げるらしく、そのおかげで私は有名私立に通うことが出来るし、この古書店も何とか経営が出来るのだから、国見さまさまである。お礼にキスくらいしてあげたい、なんて言ったら彼は顔を真っ赤にして逃げ出す。それくらいピュアな青年なのだ、…愛いやつめ。

 そんな国見くんが私の後ろに、にこやかな笑顔を貼り付けた九房警部と、困り顔の有馬刑事を認めると、あからさまに嫌そうな顔をするのを、まぁ久しぶりに見た。
「いよっ!久しぶりだな親友!」
「これはこれは九房警部殿、自らお越しとは刑事部も随分暇なようですね」
「おいおい、昔みたいにカズって呼んでくれよ」
 国見くんの棘のある言葉をさらりと交わす九房警部。カウンターにひじをつき、うんざりと目をそらしながら、彼はため息をついた。
「とっくに縁を切った。帰れ帰れ営業妨害だ」
「ほほぅ〜、店内ガラガラなのに?」
「……」
 言葉に詰まる。たしかにお客さんはいないよね。私はすっきりして気持ちがいいけど。
「…栞、この馬鹿の話は俺が聞いておくから、先に上がってろ」
「ん、いい。私も聞く」
 九房刑事が持ってくる仕事は面倒ごとが多いが、別に嫌いなわけではない。むしろ、それを私は愉しんでいる時があるかもしれない。しかしずっと聞くのもなんなので、先ほど写し取った記憶の本を読みながらにしようと思う。
 私はバッグを適当な場所に置き、カウンター内の奥、2階へと続く階段に腰を下ろして本を読み始める。その様子を国見くんは不安げに見上げてきた。しかし、何を言って無駄だと悟ったのか、九房警部の方へと向き直る。

「で、何の用だよ。仕事の依頼は電話やメールで受け付けるって言ってあるだろ?」
「俺がどっちも苦手なの知ってるだろカク」
 睨み付ける国見くんと、煙に巻くかのような顔をした九房警部。カクというのは国見くんの愛称らしい。なんかカクカクしてて好きじゃない。無謀な口げんかが始まりそうな2人を見て、有馬刑事がやんわり口をはさんだ。
「すみません国見さん。ことがことだけに、外部に知られたくなかったんです。盗聴、ハッキングの可能性もありえますから」
「ここはいいのかい?ここだって盗聴されてるかもしれないよ?」
 こちらからは顔を見る事はできないが、たぶん国見君は笑ってるんだろう。だって、そんなのが仕掛けてあれば、国見くんがすぐに判っちゃうだろうから。彼の“目”からは何人も誤魔化すことはない。そういう能力の持ち主なのだ。2人の刑事もそれを知ってるのだろう、苦笑で返した。やがて、九房警部はちょっとだけ身を正して話を始めた。
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chapter.3 : Who done it ?
■chapter.3 : Who done it ?
「…実はとある事故で死んだ少女の記憶を写し取ってほしい」

説明を促された有馬刑事の話によると、私の通う私立水上学園で先日起こった転落事故。表立っては自殺、もしくは転落事故で捜査中とされているこの事件。実は意図的な殺人事件ではないかと疑われているらしい。私はその時の状況をあまりよく知らなかったから、ここで初めて事の詳細を知る。

 事件は2日前、時刻は夕刻18時ごろ。現場は学園の北東側にある第7校舎の屋上。転落して死亡した被害者の名前は『北野真冬』。屋上にあるフェンスがさびで根元から折れており、“たまたま”寄りかかった際に、偶然落ちたもの、もしくは自殺とされる。そして、“たまたま”転落の現場を見た生徒がいて、すぐに通報されたため直ぐに救急車で運ばれた。しかし、落下時の衝撃によって折れた背骨と肋骨が内臓に突き刺さり、さらには頭蓋骨も陥没し脳も損傷、それに伴う大量出血にて3時間後に死亡したらしい。警察による司法解剖は今日までで、明日通夜が行われる。その辺りは朝のニュースでも聞いていた事、これ以降の情報は内容が内容だけに、報道規制がされている。

一つ、フェンスの根元にはさびによる腐食だけでなく、鋭利な刃物による傷があった事。

一つ、被害者のポケット内に、現場へ来てほしい旨のメモがあった事。

一つ、転落後の第一発見者というのが、被害者と同級生の『鹿島葵』である事。

つまり…、
「…他殺である可能性があるってこと?」
 私は、今ある情報から出される率直な推理を口にする。
「まぁね、状況証拠だけでいうと自殺なんだけど」
 意図的にフェンスに近寄らせ、そのまま落とそうとしたという事か?そうなると、もっともその現場に早く訪れた、鹿島と言う少女が最も怪しい。その日彼女は部活を休んでいて、部の顧問には病院へ行く、と告げていたらしい。実際、事故発生時まで彼女を学園内で見たものはいない。
「なぜ彼女がその場にいたのかが不明だし、メモの事も気になります」
 有馬刑事は懐からメモ帳を取り出し、数枚めくって顔をしかめた。
「しかし、発見時の彼女の様子も含め、いくら調べても殺しが起こるような関係ではないんですよね…」
「なんだよそれ?」
 どことなく、九房警部と有馬刑事は言いにくそうにしている。私はそれだけで、なんとなくわかった気がした。仕方ないから、私が口にする。
「……2人は恋人同士だったのね」
「えっ!?」
 案の定、国見くんは驚いていた。まったく、色恋沙汰に鈍いのはどうにかならないのだろうか。2人の刑事らは少しホッとした様子で頷いた。
「む…栞ちゃんの言う通り、恋人同士だったらしい。同級生からの裏も取れている」
 学園内にも公安の縁者がいる、多分そこからリークされた情報だろう。
「…一応、痴話げんかの末って筋も調べてみましたけど、その日の昼休み、2人が仲睦まじく食事をしているのを見た生徒がいました」
 ページをめくる有馬刑事の声が気落ちしていて少し痛々しい。その後なにか起こったのではという考えにいたるも、それはあくまで可能性も一つとして加えながら、他の推理に至ろうと思考するため、話を促す。
「ん、第3者の存在は?」
 第3者、つまり横恋慕の末、2人の仲を羨んで殺したというのはどうだろう。
「いや、それもなかったよ。2人の仲は入学当時からのもので、結構有名らしいし。正直、女子高内での色恋ってのもそう多くはないっしょ」
 九房警部の最後の推察は、いかにも男性らしい意見だろう。実際に通っている私から見ると、昼休み、放課後はあちこちで“花が咲いて”いる。かく言う私も『恋文』とやらをもらった事があるが、きっぱりと断った。……国見くんにはからかわれる元になるので、話してないけど。すると、私と九房警部、有馬刑事のやり取りを黙って聞いていた国見くんが口をはさむ。
「…和友、遺留品のメモに指紋は?筆跡鑑定はやったんだろ?」
「ああ、一応な。筆跡、指紋共に被害者の物だった……、おかしいだろ?」
 私は思考する。彼女は自分で死地へ来るようにという文を書いた。
なぜ?誰かに渡そうとして渡しそびれた?
そこから発想されるのは最悪のシナリオ。
「被害者は実は恋人の鹿島葵と心中するつもりだった。しかし、それを渡せず…1人フェンスに手をかけた?」
「心中はともかく、やはり自殺の可能性は否定できません。被害者は数日前から随分悩んでたようだから…」
 なんでも両親が離婚、どちらに付くかで転校もありえるし、母方の祖母が預かるという話も上がり、家族がバラバラになる危機にあるらしい。親と離れれば恋人と共に残れるが、家族はバラバラ。どちらかの親についていけば、二度と恋人と会えないかもしれない。
「親と恋人、どちらも好きだから、どちらも選べなくて、自殺したという事もありえるってことか」
 国見くんが目を伏せて、少女の死に思いをはせる。
「自殺という名目じゃ世間体に印象が悪いから、事故という形にした可能性もあります」
「…正直、署内でも、どうすべきか迷っちゃってるわけよ」
 普段は明るい九房警部と有馬刑事が、いつになく沈んでいる。さすがのこの人も、人の生死に関しては明るくなれないのだろう。

「…それで私の出番ってわけ、か」
 いつまでたっても終わらない推理合戦も、たぶん私の力で解決する。
私の力、“記憶を写し”、又“切り取る”ことができるこの『忘却日誌』の能力で。
「頼むよ、今は君だけが頼りだ“黒猫”ちゃん」
 九房警部は申し訳なさそうに、力ない笑顔で頭を下げた。
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chapter.4 : Description
■chapter.4 : Description
 彼女の遺体が眠る警察病院に着くと、私たちはすぐにエレベーターで地下の階層に移動した。暗闇の廊下の先、重く閉ざされた扉の中は、狭苦しく、抹香の匂いが染み付いていた。 霊安室に横たわる、白い布に覆われた少女、その顔に掛けられた布を有馬刑事が丁寧に取り去った。死した少女、北野真冬の顔には傷一つなく、穏やかで、とても美しかった。
 4人皆、彼女に対して手を合わせる。そして2人の刑事は、私たちに無言の目配せを送ってきた。私は、それまで握り締めていた国見くんのシャツの裾をはなし、彼女の元へと歩み寄る。少しだけ、その別離が心細くて振り返ると、国見くんは軽く頷いてくれた。そうだね、うん、もう大丈夫、迷いはなくなった。

 私は腰に巻いたホルダーから、真新しい文庫本サイズのハードカバー本を取り出す。
中身は白、問題はない。そしてホルダーに付けたパレットから一枚のしおりを抜き出す。
 リボンの色は赤、こちらも問題ない。私はそれらを、花が手向けられた小さなテーブルに置く。そしてもう一度だけ、彼女に手を合わせた。
「…はじめるわ」

 いつもは自分流の簡易式にしている詔だが、今日は礼を尽くす意味も含め、本式の方でいこう。私は口の中で呟くように言葉を紡ぐ。

『La memoria della persona. Memoria di questo mondo. Memoria di tempo. Memoria perduta.(彼の人の記憶。現世の記憶。ひと時の記憶。失われし記憶。)』
 私は本を左手に、しおりを右手に持ち、詔を謡う。

『Io sono un mago dei capelli predare-neri. Io voglio il potere secondo una vecchia confederazione. Motorizzi volere e una brillante lama rossa.(我は黒髪の魔術師。古の盟約に従い、力を手にした者なり。我が武器は紅き刃。)』
 右手のしおりを彼女の額に当て、左手の本を胸に抱く。

『Falcetto di ferro che miete la memoria della persona. Io devo aprire la porta della mente della sua persona all'origine del nome della guida. (それは人の記憶を刈り取るくろがねの紙鎌。我、栞の名の元に、彼の者の心の扉を打ち開かん。)』
 体が、心が熱い。全身に汗が吹き出てくる。本式の詔は私自身の体も締め付けてくる。

『Ricordi nostalgiche. Il passato di malaugurio. Lo copi sopra questo libro.(懐かしい思い出。忌まわしい過去。全てこの書に写したもう。)』
 何かにコツリと触れる感触…。

『…Ora.(開け。)』
 記憶の網を掻き分けて…。

『……Ora!(開け!)』
 もう、少し…。

『………Ora!!!(開きなさい!)』
 意識が真っ白に焼けるような感覚…そして、あたりを引いた。そんな手ごたえもあった。

 バチリッという感覚が私の背を走り抜ける。それは力が通った感覚、やがて右手に流れ、彼女を通って左手の本へ帰ってくる。そして、右手のしおりが赤から青に染まっていった。本には光の文様が走りぬけ、装丁を施こす為に輝きだす。中身からは光が放たれ、テキストを焼き付けているジュっと言う音がかすかに聞こえた。
 たぶん、成功したはず……。そう思った矢先、私のひざは床に崩れ落ちた。足に力が入らない。大量の力を消費した為か、体も、もう、限界…。
 暗闇の中に、意識が遠のいていく。
 最後に感じたのは、国見くんが抱きとめてくれる感触だった。
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chapter.5 : White noise
■chapter.5 : White noise
 …あれからどれくらい時間が経ったのだろう…。白じんだ意識が覚醒し、まどろみから覚めて、はじめて見たのは人工的な白だった。

「………あ」
 蛍光灯の不自然なまでに真っ白な光が酷くまぶしい。
そこは明るい場所で、私は堅いベットの上に寝かされていた。
…ここはどこだろう?…今何時だろう?…わたし、何やってたんだっけ?
 どうにも思考が有意義に働かない。とりあえず、気だるさの残った体を起こそうと、腹筋に力を込める。しかし…。

「んんっ…んん?」
 どうにも体を起こすことができない。おなかに何か重石のような物があるようだ。
首だけを強引に持ち上げ、めくれた布団の陰に隠れた、その重石を目にする。
 そこには、国見くんが体を預けて眠っていた。どうやら私の看病中にそのまま眠ってしまったらしい。なんとなく予想できる彼の行動と、相変わらずしかめ面で眠る様子を見て、思わずクスリと笑ってしまう。
 私は、彼を起こさないようにそっと、まるで彼を膝枕するように体をずらす。
そんな努力のかいもあり、ようやく起こすことができた上体で周囲の様子を伺ってみた。病院の一室らしい清潔で飾りも何もない部屋、中には私と国見くんだけ。時間は……11時過ぎ。いつもなら寝る前の一冊を読んでいる時間帯だ。
「んぁ……?」
 寝転がっていたせいで、いつも以上にクシャクシャになった長い癖っ毛を、手櫛で荒く梳きながら、どうしたものかと思考する。適当にさまよっていたもう片方の手は、私の膝の上で眠る国見くんの髪を意味もなくイジって遊ぶ。そのうち、ぼやけた頭がだんだんはっきりしていき、意識を失う前の出来事を思い出し始める。
「そっか、私…」
 久しぶりの本式の儀式のせいで力を使用しすぎ、意識を失ったのだ。儀式を行ったのは夜の7時過ぎ、すでに5時間は経過しているようだ。刑事2人がいないのは、たしか夜は用事があるとか言ってたからだろう。

 ……そうだ、北野真冬の記憶の本。
本式の“忘却日誌”の力だ。その内容は正確無比なはず。うまく写し取った感触はあった。失敗しているはずはないと思うが、万一の事もある。所在を見渡すと、膝の上の彼の下にそれはあった。私はそれを、極力彼を起こさないように、そっと抜き出す。さて、堅い表紙を両手で持って表紙を開く。
 …中表紙には『北野真冬』『全史』とある。どうやら彼女の全ての記憶を写し取る事には成功しているようだ。装丁は花柄の唐草、うん、イメージ通り。
 さらにページをめくると、目次には各年代ごとに区切りがあった。我ながらの仕事振りに、少しだけ優越感を得る。やはり本式の儀式を行うと本が立派になる。とはいえ、毎回やるたびに倒れるのにはまいるなぁ。軽く頭を振り、ページをめくる手を進める。

 彼女は元々この町の人間ではないらしく、小学3年のころにこの街に引越してきたらしいことが、そこには記述されていた。そして、
「…ふむ」
 そこには引っ越してまもなく、後の親友となる鹿島葵との出会いと、徐々に深まっていく友情が記されていた。転入したばかりの彼女は、周囲にいじめを受け、暗く沈んでいたらしい。そこに彼女が現れ、友達になってくれたという、まぁ、いかにもな友情物語だ。
 今のところは事件の陰すらなく、特に問題なさそうなので、軽く読み飛ばす。やがて章が進み、彼女は中学に入る。その頃から2人はお互いに意識し始め、行為が深まっていったようだ。ふむ、女の子同士の恋愛というのも、なかなか乙なものだ。今度、その手のフィクション物を読んでみようと思った。
 しばらく読み進めると、高校に入ったくらいの頃から両親の不仲が始まったらしい。次第に激しくなる喧嘩に、時々お泊りと称して鹿島葵の家に世話になった事も記されている。そして高校2年、いよいよ離婚する事となった両親、そしてそれに悩む真冬。
 両親に付くことは学園を離れる事になる。それは愛しい人と別れを意味する。1人学園に残ることは愛しい人と離れずにすむが、両親と離れ離れになり、家族は離散する。どっちも選べず、苦しみぬいた彼女は……………え?
「……何、これ?」
「………無いだろ?その先」
 本の裏、私の膝の上から聞こえたその声に、私の胸は飛び上がった。
落ち着け私。とりあえず本を開いたまま胸に抱き、膝の上への視界をクリアにする。こんにゃろめと思ったが、彼の顔を見ると罵る気持ちも失せた。

「…起きてたんだ」
 軽くあくびをしつつ、まだ体がだるいのか、彼は私の膝枕の上から見上げてきた。
「ちょっと前にな。ふあぁぁぁぁ…」
 ずれたメガネを直しながら、しかし目線は私の胸に抱かれた本をずっと向けたまま。
その目が何をさしているのかは、先ほどの私の反応が示している通りだろう。
「俺もさっき、ざっと読んだんだ、が、ふぁ…………、わりぃ」
 私は本から右手を離し、まぶたにかかりそうな彼の髪を軽く梳いてやる。
「…少し信じられないよ、これ」
 自然と口調が真剣味を帯びてくる。あの中身はそれくらいの衝撃だ。私の行為をくすぐったそうにしている彼も、やはりその事が気にかかっているらしい。
「ああ、お前の術が失敗したとは考えられない」
 当たり前だ、と思いつつも、その言葉がとても嬉しかったので、髪ではなく、頭をそっと撫でてやる事にした。余計嫌がる顔が面白い。まぁ、話を続けよう。

「うん、確かにあの時、確実に当たりを引いたと思ったよ。でも、こんな事は初めて…」
「まさか、件の記憶の部分だけ、何も書かれず、真っ白とはな…」
 そう、文字通り真っ白だったのだ。ここ数日の記憶のページだけ、まるで何かを隠すかように真っ白に。

「どう思う?国見くん」
 まだ私の膝の上にいる国見くんに、意見を聞いてみた。
「…わからん。俺も先代から世話になってるが、こんなのは見たことも聞いた事も無い」
「私も…」
 2人なんとなく考え込んでしまう。術は成功したのに見たい場所が見えない。これは死した彼女の意思なのだろうか?しかし、いくら考えても答えは出そうに無い。
「…うちに帰れば、母さんが残した資料が何か残ってるかも」
「…だな。こりゃ俺たちだけで解ける問題じゃないかもしれん」
 国見くんはそう言って、私の膝から頭を起こす。私の方も、体の調子は戻っていた。もう大丈夫だろう。私は体にかけられた薄いシーツをはがす。
「うん、そうだね。早く帰って調べてみましょ」

 着替えの為に病室から彼を追い出し、一息ついた私は、ベッド脇のテーブルに私の服が置いてある事にようやく気が付いた。奇妙なくらいに綺麗にたたまれている…まさか彼が畳んだのだろうか?彼が生真面目な顔で私の服を畳んでいる様子を夢想する。…いかんいかん。
 黒いチョーカーに男物の黒いシャツ、黒いミニスカート、黒のニーソックス、全部黒。唯一光るものといえばチョーカーに付いた小さな鈴くらい。
 今着ている白いシャツは病院着か何かだろう。しかし、白い服は苦手だ。簡単に死を連想してしまう。私は清潔な白いシャツを脱ぎ捨て、下着だけの姿になる。同い年の娘らよりも、明らかに成長していない貧弱な肢体。そんな骨ばった体に黒の装いを身につけていく。
 …こんなんじゃ、いつまでたっても…。柄じゃない年頃な想いをふと抱くが、軽く頭を振って思考停止。それよりも、さっきの北野真冬の記憶の本。
 なぜ、件の記憶の箇所だけ塗りつぶされていたのか?
他者に記憶が消去された可能性は在りえない。そんな芸当ができるのは、私の“オリジナル”である大祖母様だけだ。だとしたら、彼女が意図的に記憶を封印している?彼女は死してなお、何かを隠したいというのだろうか…?

「国見くん、聞こえる?」
 私はドア越しにいるであろう、国見くんに声をかける。
「…どうした?」
「明日、北野真冬の通夜でしょ?そこに鹿島葵が現れると思う?」
 彼は何かを取り出すような物音をたて、しばらくしてから返答を返してきた。メモを取っているとはいつもながら関心関心。私は“写し取れ”ばいいからやんないけど。
「……クラス全員参列するらしいからな。たぶん来るだろ」
「私もそれに参列するわ。そして、彼女の記憶を写し取ってみる」
「…危険じゃないか?」
「百も承知よ。でも、北野真冬の記憶に答えがないなら、彼女の記憶に頼るしかない」
「…………」
「…だめ、かな?」
 しばらく返答がなかった。彼なりに深い思考に入っているのだろう。私はドアに手のひらを当てて、ドア越しに彼の背に触れる。念を送るとかじゃないけど、なんとなくだ。

 やがて向こう側から、小さなため息と、ドアを軽く小突く音が聞こえた。
「お前の無茶は今日に始まったわけじゃないしな。俺も付き合うよ」
「…ありがとう」
 心からそう思った。そして私も、彼と同じようにドアを軽く小突いた。
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chapter.6 : Cold rain
■chapter.6 : Cold rain
 そして翌日の夜。夕刻を過ぎ、暗く沈んだ住宅街にある小さな寺。そこで北野真冬の通夜は執り行われた。小雨がパラつく中、1〜20名ほどだろうか、随分少ない親類縁者が集まり、それぞれで悲しみを分かち合っている様に見える。
 …嫌な光景。いやでも昔のことを思い出す。ここにいる全員が、本当に故人を偲んでいるのだろうか。心の中がざわつく。見える者全てが厭らしい俗物に見えてくる。
 そんな私の心のうちが見えたのか、国見くんが私の頬をつねった。
「こら、なんて顔してんだ。来るって言ったのはお前だろ?」
 ……いふぁいほ。わふぁっへる、ふぉんはふぉふぉ。少し涙目になると、彼は私の頬をつねっていた手を離した。

「…で、鹿島葵はどの子なんだ?」
 私たちがいるのは境内の入り口、案内所がある付近だ。ついさっき、お坊さんによる読経が終わり、皆それぞれ焼香待ちといったところか。頬をさすりながら、私は境内を見渡す。
「あそこ、納骨殿の入り口近くにいる子」
 事前に学園で調べておいた彼女の顔、間違いない、彼女が鹿島葵だ。しかしその顔は学園で見たときよりも暗く沈んでいる。周囲に人はいない。仕事を行うには、またとないチャンス。私は国見くんに視線だけで合図を送り、何気ない風を装って歩き出した。
 右手に新しい本としおりを握りこむ。赤いリボンが巻かれた小さな紙片には、すでに一文を書き込んであった。
『北野真冬との思い出』
 今宵の席にとって、この題目は残酷なものかもしれない。しかし、ゆっくりとした足取りで、彼女、鹿島葵の元に歩み寄る。私が近くに来ても、彼女はただ悲しみの中に堕ち込んでいるようで、接近に気づいた様子はなかった。

「……大丈夫ですか?」
「えっ!?」
 声をかけられてようやく気づいたのか、彼女は慌てて顔を上げ、怯える目で私を見上げた。腰が引け、視線が泳ぎ、胸に組んだ指が震えている。制服は同じでも、見たことがない私に対して警戒しているらしい。
「1年の本条です。北野先輩にはいろいろとお世話になりました。あの、失礼ですが、鹿島先輩、ですよね?」
 自分の名前と北野真冬の名前を知っていることで、少しは緊張が解れたらしいが、まだ完全に警戒を解いてはいないよう。しかし、話を聞いてくれる状態にはなったようだ。
「…本条…さん?私に何か…」
「いえ、たまたま先輩の姿が見えたものですから。…なんだかすごく辛そうだったし」
「………」
 再び押し黙ってうなだれる鹿島葵。ややあって私は、そんな彼女の頭をそっと抱きしめるように頭に手を触れようとした。しかし、その瞬間、

「やめて!」
 彼女はまるで腫れ物にでも触られたかのように私の手を跳ね除け、飛びのくように納骨堂の扉に背をぶつけた。その音とやんごとなき様子に、何事かと周囲の視線が集まりだした。
「あなたなんかに何がわかるの!気安く触れないでよ!」
 声を荒げ、仇敵を見るような目で私をにらみつけるその様子に、私はただ何も言えず、立ち尽くすのみだった。何も言えるわけがない、本当に私は部外者なのだから。
「葵ちゃん…!」
 私たちのただならぬ様子に、仏前にいた北野真冬の母親が駆けてきた。すると鹿島葵の怒りの矛先が、今度は彼女へと傾いた。
「あなたが、あなたたちが真冬を追い詰めたのよ!あなたがあの子を殺したのよ!」
 騒然となる境内の中、鹿島葵は真っ青になった北野真冬の母親を、涙にぬれた目でにらんでいる。北野真冬の事故のとき、彼女は第一発見者だった。彼女はただ、血まみれになった親友のそばで、喉が枯れるまで叫び続け、乾く間もないほど涙を流していたと、通報後に駆けつけた警官からの報告にはある。
 昨日は学園を休み、部屋に引きこもって泣き続けたらしい。北野真冬の死は、彼女にとってそれほどの衝撃だったのだ。だから許せないのだろう。その原因になったかもしれない両親を。たぶん、鹿島葵は知っているのだ。北野真冬の死の真相を。
 今にも掴みかかるやも知れない彼女の様子に、声も出ない北野真冬の母親は怯えていた。
 私は……、にべもなく、鹿島葵の頬を強く叩いた。

「っ!?」
 その衝撃に呆然とする彼女を、私は強引に胸に押し込めた。抗う彼女を力づくで無理やり抱きこんだ。
「…誰だって悲しいの。あなただって、それはわかってるはずでしょ!」
 私の胸の中で震える彼女は、やがて嗚咽を漏らし始め、そして声を上げて泣きだした。北野真冬の母親もそのまま崩れ落ち、後はただただ慟哭するのみだった。ごめんなさい、ごめんなさいと、泣きながら繰り返す鹿島葵を抱きしめながら、私は思った。
 この事件の真相は、暴かない方がいいかもしれない。この悲しみだけで全ての事が終わるなら、これが“彼女”の意思ならば。しかし……無常にも、この悲しいシナリオは進むのだと、少しだけ強くなった雨が囁いていた。
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chapter.7 : encounter 2nd
■chapter.7 : encounter 2nd
 潮交じりの海風が吹きぬける。初夏の日差しが、私たちの影を学園の屋上に色濃く焼き付かせる。まだ本調子ではないからりとした夏の熱さが、2人を絡めとっていた。

「………どうして、あなたが…ここに、いるの…?」
 震える声で、鹿島葵が私を見つめる。
 私は第7校舎の屋上、まだ現場検証のテープが張られたこの場所に立っている。
 時折強く吹き上がる風が私の長い髪を巻き上げ、やがて、風はやみ一時の静寂が訪れた。
「どうしてって、あなたがここで死ぬ事を知ってたからよ」
「!?」
 その言葉に驚く鹿島葵。無理もない、今日は北野真冬の葬儀の日。だれもここに来るはずがないのだ。私は入り口で呆然とたたずむ彼女へと歩み寄る。

「あなたは間違っている」
「!?な、なにがよ!」
震える足を気持ちで押さえるように強い口調で返す彼女。私はさらに歩み寄る。
「あなたがここで自殺しようとする事」
「っ!?」
 がたがたと笑う膝を両手で押さえる彼女の目の前に、私は立ちふさがる。まるで死地へ赴く彼女の最後の壁のように。
 そう、私は昨日の北野真冬の通夜の際、彼女の記憶を写し取ることに成功したのだ。そこには、今日この日この時間に、ここで自殺するという計画が書き記されていた。
 1人分の悲しみで終わるはずだったこの事件、いや、もはや事故というべきか。
「あなたたちにとって、ここは密会の場所だったのね」
「………」
 第7校舎の屋上、いや、第7校舎自体が授業煉としてしか使われておらず、夕刻になるとここは無人になる。愛を語らう場所はどこでも良かったのかもしれないが、ここは2人にとって特別な場所だったようだ。
 はじめて口と口が触れ合った、心も体も繋がった神聖な場所。いつしかここは彼女らにとって、桃蜜の園となっていたのだ。メモは合図、見せ合った日の放課後、2人の密会は行われていた。そして、それは誰にも知られる事のない2人だけの秘密、のはずだった。

「どうしてあなたが知ってるの!?」
「そんな事はどうでもいいわ」
 秘密を知られたせいか、裏返った声で叫ぶ彼女の言葉を、私は冷たく遮る
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tips : Aoi's Diary
■tips : Aoi's Diary
 今日も2人は密会の約束をし、屋上へと向かった。悩み、憔悴しきっていた真冬は、いつも以上に私を求めた。まるでそれが最後の逢瀬であるかのように。フェンスに体を押し付けるほどの強い抱擁を交わしているとき、それは“起きた”。突然フェンスが屋上の外、高い空中に向けて倒れだしたのだ。
 スローモーションように倒れ行く真冬、私は校舎側にいたので、慌てて真冬の右手を掴んだ。しかし、彼女はすでに屋上より下、腕一本つかめただけでせい一杯だった。
『死なせて…』
 悲しく笑いながら真冬が言った。

『だめだよ真冬!がんばってよ!』
 一生懸命引いているが、人1人持ち上げるのに、私の力はあまりに非力だった。

『死んじゃだめだよ真冬!私を置いてかないでよ!』
 限界だった。少しの希望を込めて、誰かに救いを求めようと声を上げようとした瞬間。

『…だって、これはあなたが仕組んだ物でしょ…』
 心臓が凍りついた。

『めずらしく今日は葵から誘ってきたじゃない。しかも私より早く来るなんて初めて…』
 掴んだ手が力の入りすぎで真っ白になっている。

『さっきあなたのポケットからナイフが落ちたのを見たわ、そしてフェンスには傷があった』
 膝が震える。それでも手は真冬を離そうとしない。

『…一緒に行ってくれるんでしょう?私を解放してくれるんでしょ?…』
 いつの間にか私の涙が、今にも事切れそうな真冬の顔に滴り落ちる。

『…こわいよ、やっぱり怖いよ!死にたくないよ!一緒に生きようよ!』
 体が震える。これ以上の力は、もう無い。
 大粒の涙が雨となって降り注ぐ真冬の顔は、とても穏やかで、でもとても綺麗で…。

『私は無理、これ以上は無理だよ…』
『全部あたしのせい!死んじゃ嫌だよ、私が変わりに死ぬから!』
 もう限界だった。体は次第に真冬に引きずられるようになる。

『…だめだよ、私も葵が死んだら悲しいもん。だから、ね?』
 真冬はもう片方の手で、私の手を解いた。それはこの世との別離の瞬間。

『生きて、葵。…大好きだよ。』
『あっ』
 小さな声が上がる。手が、宙を掴む。涙の受け皿は、遥か下に、下に、下に、もう手が届かなくなって、落ちて、ああああああああああAAAAaAaaaAAAAaAああああ!!
 聞きたくもない、地面から響く、果実がグシャリと潰れる音。校舎の下、コンクリートの白い道の上に、真冬が仰向けに倒れているのが、涙でぼやけた視界でも見下ろせた。
 私は声にならない声を上げ、半狂乱になって屋上を飛び出した。永遠にも感じる数分間、彼女の元にたどり着いたときにはすでに、大きな血溜りができていた。

 ピチャリ、ピチャリと、私はその中を、湿った靴音を立てながら、一歩一歩近づく。真冬は目を薄く閉じ、薄く涙を流しながら事切れていた。その目は偶然か否か、頭上の空、あの屋上の縁を見つめていた。ガクガクと震える膝が血溜りの中に沈む。彼女の血が染み込んできたスカートを握り締め、真冬が見上げている同じ空を見上げる。
 しかしその目は視線が彷徨い、何を捉えようとしているのかすらも掴めない。そして、震える唇から、かすかに、ほんのかすかに何かが漏れて出ているのを感じた。
『ひぁぁあああぁぁあぁぁあああああぁあぁああああぁぁああああああああああぁぁぁあああぁぁあぁぁあああああぁあxxxxxxxxxああああぁぁぁあああぁぁあぁぁあああああぁあぁああああぁぁああああああああああぁぁぁあああぁぁあxxxxxxxxあぁあぁああああぁぁあああxxあああああぁぁxxxxxxxぁあぁぁあああああぁあぁああああぁぁあああああxxxxxぁああああああああああああああぁぁあxxxxxxxx…』
 心が押し潰れたかのような、まるで喉の奥から搾り出されるかすかな悲鳴は、先生が来るまで止まらなかった。

 ワタシガ殺シタノ。
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chapter.8 : To the sky
■chapter.8 : To the sky
「…彼女はあなたが生きることを望んだ。これは彼女の最後の意思よ」
 崩れ落ちる彼女に、私は冷たく言い放つ。
「あなたはそんな彼女の意思を否定するの?」
「私が殺したの…私が…」
 そんな彼女の目の前に、私はビニル袋に入った一枚の紙を差し出す。
「…なに、これ…」
「彼女の遺書」
「!?」

 そう、北野真冬はその日自殺するつもりだったのだ。他ならぬ、第7校舎で。通夜のあと、私が偶然持ってきていた北野真冬の本に変化が現れていた。真っ白だった項目に文字が浮かび上がっていたのだ。まるで、彼女が鹿島葵の恐慌を止めてくれといわんばかりのタイミングで。それにより、北野真冬の自室の再捜索が行なわれ、記述のあった場所から遺書が押収された。

 遺書には、家族がバラバラになったのは自分が原因であり、その罪を償うため、死を選ぶと書かれていた。彼女の両親が離婚に至る騒動、それは真冬の体が原因だった。北野真冬は生まれつき卵巣を持たない障害児であり、結婚しても子を宿せない体だったのだ。彼女の年齢が大人になるにつれ、その事が両親の不安となり、結果夫婦間に溝ができた。初潮も、月経も無く、女性ホルモンの分泌すら行なわれず、次第に成長のリズムが崩れていく真冬の体。やがてその溝は親類縁者にまで広がり、結果、真っ二つに割れた。
 手術にて何らかの手立てを行う母親派。現状維持で自然の任せるままにする父親派。ことは離婚だけの問題ではなくなってきていたらしい。そのことでより真冬に負担がかかっていることも知らずに。

「そんな…」
 脱力して座り込む彼女に対して、私は何もしてやれない。これは彼女自身が乗り越えるべき現実なのだから。
「ひょっとしたら心中しようと考えていたのは、彼女が先だったのかもしれないわね」
「…そんなぁ…、…そんなぁ…」
 そのまま彼女は横倒れに倒れる。そして、屋上のコンクリートに爪を立て、頬をこすりつけながら嗚咽を漏らし始めた。私は何も声をかけることはできない。かけたら最後、彼女は本当の意味で立ち直れないかもしれないから。しばらく嗚咽を立てて泣いていたが、突然ふらりとたちあがった。
 気づいたときにはすでに遅かった。彼女はものすごい勢いで私の横を走りぬけ、ビニルテープでしか隔てられていない、屋上の外、空の伽藍へと、その身を躍らせた。

 つっ!?冗談じゃない!!あなたはわかってない!彼女の意思を!あわてて手を伸ばすも、その手はただ伽藍を掴むのみ!
 しかし、そんな私の想いも、半狂乱となった彼女には届かない。ビニルテープを引き千切り、空へと身を躍らせる彼女。間に合うか!?いや、間に合わせないといけない!!
 もうこれ以上、私の目の前で誰も死なないで!!翼のように広げられた両手が屋上より下へと消えようとする瞬間、私は右手の“鍵状”のしおりを、左手の本の中へ突き刺した。
 そして同時に私も宙へと身を躍らせる!

『Come per il mio occhio di destra, il suo occhio di destra, i suoi lasciati occhio sono il mio occhio sinistro.Il guardiano della strega, venga a qui!(我が右目は彼の右目、彼の左目は我が左目。魔女の使い魔よ、ここに来たれ!)』

 私が左手に持っていた本が、その分厚い鍵を開き、中の紙を空に躍らせる。それはやがて私の背へと踊り、紙の翼となる。そして私は鹿島葵を追い、空中を駆ける。
 この建物は10階建て。地上まではそう簡単には到達しない!丁度5階当たりだろうか、まだ下まで10m程はある空中で、私の手は彼女の右手を掴み上げた。彼女は腕1本で宙にぶら下がっている。まるで、北野真冬の時と同じではないか。

「放して!死にたいの!真冬と同じところに行くの!」
 私の腕を無理やりにでも解こうと、暴れだす。…まだわかんないのかこの女!!
「死なせるわけないでしょ!北野真冬は、あなたが死ぬことを望んでいない!」
 隠された文字が、突然読めるようになった事。そう、死しても彼女を守ろうとする彼女の“意思”が、たとえ体がなくともまだ生きている!
「生きなさい!これはあの時、あなたが言った言葉そのものよ!そんなに死にたかったら!彼女の分まで長く生きて!そして墓まで彼女の意思を持っていきなさいよ!」
 そして私は手を離した。彼女は再び落下していく。しかしその表情は、とても醜く『歪んで』いた。
私は腰のポシェットに入れていたもう一冊の『本』を取り出し、素早くしおりを挿して詔を唱える。
地上すれすれで、左手の本から派生した紙のクッションが彼女をつつむ。落下の衝撃で広がる砂煙。私は翼を羽ばたかせて揚力を稼ぎ、固い地面にふわりと降り立つ。そして、紙のクッションで難を逃れた彼女を眺める。クッションの中央でへたり込む少女、そして雪のように周囲に舞う紙片、それはまるで彼女を護るかの様に舞っている。
 鹿島葵は、ただ、呆然と、どこへともなく視線が泳ぎ、やがて、ポツリと声を漏らした。かすかに、ほんのかすかに聞こえたその声は、もう死んでいた。
「………………生きて、いいの?」
「何度も言わせないで」

 彼女を覆っていた紙片が私の右手に集まり、やがて一冊の本に戻った。挿したままだったしおりを抜き、私は彼女へと歩み寄る。
 生きた屍となった彼女に、私はその本を放り投げた。それは北野真冬の生きた証、彼女の記憶、2人のかけがえのない思い出が詰まった一冊の本。そして、彼女を守った本…。
 本は彼女の胸にぶつかり、その反動で彼女は地面に崩れ落ちた。もう、中身のない、生きた屍になった少女に、私は二度と視線を向ける事はなかった。
「…“言葉”の重みを知りなさい…」

 背を向け、どこへともなく歩き出す。背中で渦巻いていた紙片が、やがて私の左手側に集まり出す。それは人の形となり、長身の、見慣れた青年へと姿を変えていく。
「…いいのか?彼女、放っておいても」
「いいのよ、もう、私のやれる事は終わったわ」
 国見くんはただ押し黙るだけ。しかし、その顔は…。
「…何よ、その気持ち悪い笑い。本に戻すわよ」
「いや、何でもないよ。ご苦労さん、ご主人様」
 彼はそれ以上何も言わず、ただ私の頭をやさしく撫でてくれたのだった。

 鹿島葵はその後、九房警部らに連れられて、病院へと連れられていったそうだ。
 そして、治療の間、ずっと病室で1冊の本を泣きながら読んでいたらしい。回復は順調、近いうちに退院となるらしい。
また、警部らの話では彼女には何の罰も与えられないとのこと。確かに殺害補助をしたが、最終的に彼女は助けようとした。そう言う意味でお咎めはないらしい。でも彼女の心には大きな罪の意識が彫り込まれただろう。一生続く、友人殺しの汚名を。
 …やがて二ヶ月の時が流れた。
title
epilogue : Fade to black
■epilogue : Fade to black
「やー、今回は助かったよ、ご苦労さん」
 九房警部の話では、鹿島葵は学園をやめ、その後に北野真冬の母親が経営している花屋で働いているらしい。彼女のことに関しては、マスコミには一切知らされることはなかった。しかし、彼女は北野真冬の母親には全てのことを告白したらしい。彼女はそれを受け入れてくれたそうだ。
 後日談となるが、北野真冬の母親は結局離婚し、今は真冬の墓を守りながら、花屋を続けていくそうだ。北野真冬には夢があったらしい。両親と一緒に、いつまでも一緒に花屋を続ける事。できればそこに葵の姿があって欲しい事。一つは結局叶えられなかったものの、彼女たちはその小さな十字架を背負いながら、この後の人生を生きていくのだろう。
 店の上段に飾られた、1冊の本と共に…。

 騒がしい警部が帰った後、私はカウンターに座り、ぼんやりと本をめくっていた。
カウンターには国見くんが持ってきてくれた紅茶。彼はやや離れた場所で本の整理をしているが、あんなの売れるのだろうか?私は手にした本を流し読みしながら、今回の事件のことを思い返す。
…結局、誰が一番正しい答えを出したのだろう…。ふと、ページをめくる手を止め、目を伏せながら屋上の出来事を思い返す。

「……私があの時、落ちる側の人間だったら、北野真冬と同じようにできるのかな……」
 そんな思案に耽る私に、国見くんは整理の手を止めず、意地悪く返してきた。
「お前にも死んででも守りたい人が出来れば、ひょっとしたら、わかるかもな」
 …本当に意地の悪い奴。手にしていた本を、彼がいるであろう場所に放り投げた。
「あいたっ!」
 彼の悲鳴を他所に、私はカウンターに背を向け、ふてくされ気味に足元の本を適当に取り、適当に読み流し始めた。しかし、いつの間にか背後に彼が立っていて、そして…。

「あぅ……」
 いつものように優しく頭を撫でてくれた。
「…俺だったらどちらも助かる道を選ぶよ、たぶん」
「…………ばか」
 少しだけ、ほんの少しだけ、私は彼の言葉が嬉しくて、しばらくの間、されるがままに頭を差し出していた。そう、まるで子猫みたいに……。

to be continude...next folklore.
title
epilogue : Blue Blue Sky days
■postscript : Blue Blue Sky days
 ようやく公開しましたウェブ小説「黒猫のフォークロア~Little Black~」(以下、黒猫)。
実は、これは元々サウンドノベルという形で完成させたシナリオでした。事情によりこのシナリオをお蔵入りし、同じ世界観設定で舞台を変え、推理要素を追求したのが現在同人ページにて一部公開中の「栞(仮)」です。
この「黒猫」とは一部クロスオーバーする内容になるので、こっちを読んで気になった方はソチラもみてくれると有り難いす。

 話がそれましたが、この「黒猫」、推理ものではよく使われる題材「ホワイダニット」を意識して書きました。(「ホワイダニット」とは「犯人の心理=動機を推理する」という意味の用語)
うまく書ききれたかは少し不安が残りますが、今現在自分が出せる全力を使って、彼女らの心の動きを表現してみてます。最終話での栞の様に「わたしなら…」とか、いろんな可能性をちょっとでも考えてくれたら嬉しいす。

 余談ですが、執筆中によく聴いたBGMは同人音楽集団「Liverne」のFate/staynightリミックスアルバム「Fate/sound remixes"fragments"」。中でも「spiral ladder」は後半のイメージに合ってたんでエンドレスリピート状態でした。お持ちの方は聴きながらだと臨場感?が出るかも。

 次回、第2話は初期”乱歩”風味の古典ミステリ「リソウキョウ~mirror world~(仮)」。
栞と国見の生活を掘り下げつつ、遊園地で起こる奇怪な事件を解いていくお話です。
 なお公開は「ひぐらし奏」公開の次になるかと思われますのでご容赦を。

2007年9月27日
誰が一番正しかったのかぼんやり考えつつPCに向かう朝っぱら

text & illustlation by 了

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